《次号管区事務所だより草稿(輿石勇)》

ポルヴォー共同声明に調印



英国、スコットランド、アイルランド聖公会と北欧およびバルト海沿岸諸国福音ルーテル教会ポルヴォー共同声明に調印

1996年9月1日(日)、世界のキリスト教会の歴史に期を画す重大な出来事が起こった。英国、スコットランド、アイルランドの各聖公会とデンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェイ、スウェーデン、エストニア、ラトビア、リトアニアの福音ルーテル教会が同じ信仰と宣教に携わり、同じ信仰伝承を共有する教会として相互承認し、完全な相互陪餐の関係に入る契約に調印したのである。この調印式は9月1日、ノルウェイのトロンドハイムにあるニダロス大聖堂で、1000人を超える会衆、25人の主教及び5人の大主教臨席のもとに行われた。これによりヨーロッパ北部の5千万人のキリスト者が目に見える一致に向けて大きく踏み出すこととなった。

1900年代のはじめから、英国と先述の北ヨーロッパ各国のルーテル教会の間では神学的な対話が行われており、1920年代からはじまった英国とスカンジナビア諸国との神学会議や比較的最近始まった牧会会議などにより、既に十分な相互理解が生じていた。また1970年代に始まった聖公会/ルーテル国際委員会やリマ文書に収斂された多数教派間の合意も今回の調印の背景をなしていた。更に、1982年のアメリカにおける聖公会/福音ルーテル教会の合意声明や、1988年の英国聖公会/ドイツ福音教会とのマイッセン共同声明などの聖公会/ルーテルの対話やその帰結がポルヴォー共同声明への動きを促進した。

これらの教会一致に向かう潮流にあって、ロバート・ランシーカンタベリー大主教とバーティル・ヴェルクストレム大主教(ウプサラ)は、両教会が断片的な合意の段階から目に見える一致に向けて前進するための会議の設立を呼びかけ、それに応えた双方のエキュメニストたち(現在のジョージ・ケアリーカンタベリー大主教を含む)の、1989年から3年間にわたる、献身的努力によってポルヴォー共同声明が起草され、1993年に出版されるに至った。その後両教会の公的機関の議を経て、今回の調印を見たのである。これまで両教会の一致の妨げと考えられていたのは主教職と使徒継承との関係をめぐる両教会の神学的理解の違いにあるとされて来た。

 しかし、ポルヴォー共同声明においては、主教職はもちろん個人が担うものではあるが、同時に他の主教や司祭も共同的に担うものであり、さらに教会が全体として担うものであるとされ、主教という職名を持った職制のないことが必ずしも使徒的教会から排除されるものではないことが明示されている。

 また、従来ルーテル教会の特質と見られて来た「信仰義認」は、当日の説教者であるスコットランド聖公会首座主教ホロウエイ大主教によれば、従来英国人の信仰に欠如していたものであり、聖書的にも全教会共通の遺産として尊重されるべきだとされている。

なお、同共同声明の宣言は以下の通りである。

a(1)我々はそれぞれの教会をイエス・キリストの一つの、聖なる、行動かつ使徒的な教会に属し、また神の民全ちゃ意の使徒的使命に真に参与する教会であることを承認する。

(2)我々はこれらの全教会において神の言葉が正しく説かれていること、また洗礼と聖餐のサクラメントが適正に執行されていることを承認する。

(3)我々はこれらの教会が使徒的信仰の共通の告白に参与していることを承認する。

(4)我々はそれぞれの叙任の奉仕食がその恵みの手段として、また、ただ単に聖霊による内面的な召命だけではなく、キリストの体である教会を通してキリストの派遣という性格を持つものとして神から与えられていることを承認する。

(5)我々は個人的、団体的かつ共同的な監督職(エピスコペー)が多様な形で、使徒的生活、使命及び職務を継続するものとして、それぞれの教会において体現されまた行使されていることを承認する。

(6)我々は主教の職務が教会の一致と使徒的生活、使命及び職務の継続を可見的な印として示しかつそれに仕えるものとしてそれぞれの教会において尊重され保たれていることを承認する。

b我々は以下のことに努めるものである。

(1)宣教と奉仕において共通の命に参与し、互いに祈り、持てるものを分かち合う。

(2)それぞれのメンバーをサクラメント的かつその他の牧会的な礼拝に受け入れることを歓迎する。

(3)それあおれの洗礼を受けたメンバーを自分たちのメンバーと見做す。

(4)相互の成長のため、在外の会衆をそれぞれ自国の教会に歓迎する。

(5)それぞれの教会で主教によって主教職、司祭職あるいは執事職に叙任された者を招請により、また規則に基づいて再叙任することなく受け入れ教会における職務に従事させることを歓迎する。

(6)それぞれの主教を教会の一致と継続性の印として主教叙任式で按手するよう招く。

(7)執事の職務に関して共通理解できるよう努める。

(8)信仰と職制、生活と活動の重要な事柄に関する団体的かつ会議的な協議の適切な形式を作り出す。

(9)それぞれの教会の代表による協議会を持つよう奨励し、神学的かつ牧会的な事項における新しい考えや情報を学びかつ交換する機会を設ける。

(10)交わりにおけるそれぞれの成長を促進するための連絡委員会を設立し、この合意の実施を調整する。

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なおこのポルヴォー合意声明のポルヴォーとは、同文書起草委員会が、同文書に合意する直前に参加した聖餐式の行われたフィンランドの大聖堂の名前から取られたもの


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